地形図や地質図の読み方を学び、地図を片手に歩いて地球の成り立ちを知る地学好きな中高生や学生、地学地理の先生方や一般の方々に向けた4回シリーズの公開講座を開催しました。
地図講座 座学A・B
日程
2024年8月7日(水)
9:30~12:00 講座A:『地理院地図』で新たな地図の楽しさを学ぼう
13:30~16:00 講座B:地表の下を4次元で表す地質図の世界を学ぼう
場所
地学会館2階講堂
講師
講座A:宇根 寛 (元国土地理院)
講座B:斎藤 眞 (産業技術総合研究所)
当日になって数人の欠席は出たものの、30人近い参加者を集め、大変盛況な会となりました。講師の宇根寛先生、斎藤眞先生どちらも、大変熱のこもった講義やお話をご用意いただき、地理院地図を実際に使いこなす練習や、シームレス地質図・地質図Naviを使ってさまざまな地質情報を読み解く練習をいたしました。レンタルWiFi3台を用意して正解でした。
ブレイク前に急遽お願いした、斎藤靖二会長の地学協会紹介のお話も、受講者には好評でした。
▲当日の様子
8月に実施した「地図講座2004」の「講座A・B」を受けて、野外で地図を見ながら地形や地質構造を観察する「巡検C・D」を、10月と11月にそれぞれ実施しました。
地図講座 巡検C 「地形図やWeb地図を使って都会に潜む地形を追跡しよう」
日程
2024年10月20日(日)午後
場所
東京都世田谷区 喜多見~成城~大蔵
- きたみふれあい広場
- 成城みつ池緑地
- 喜多見不動尊
- 成城三丁目緑地
- 大蔵三丁目公園
講師
藤平秀一郎 (茨城県立結城第一高等学校)
心地よい快晴の中、参加者38人、スタッフ8人による野外巡検を行いました。テーマは「崖線の地形・地層と湧水」。武蔵野台地の南を縁取る高低差20mほどの崖。これがどのようにして成立してきたかを学ぶのが、今回の巡検の主なテーマです。
小田急線喜多見駅で集合し、きたみふれあい広場(小田急線車庫の屋上)で、台地と低地のでき方や台地の基本構造を学びます。野川の向こうに崖線が見えます。ここから崖線に沿って、緑地から流れ出る湧水を見つけたりしながら東進します。
喜多見不動尊という小さな祠では、岩盤の上の礫層や、その上のローム層を見学しました。ローム層を掘り込んだ防空壕跡では、約5万年前に箱根火山が大噴火した際の噴出物である東京軽石層を観察しました。さらに崖沿いに歩いた先の成城三丁目緑地内では、礫層から水が湧き出る様子が直接観察できました。台地内部の地質構造、および崖と湧水の関係を、参加者はしっかり理解できた様子でした。
さらに東進。道路の傾斜から、少しずつ斜面を上がっているのがわかります。砧小学校前の歩道橋で地形を確認。この先は、今度は仙川に向かって下り坂。仙川を越え、大蔵三丁目住宅に隣接した公園内で、最後の湧水の現場を見学し、ここで解散です。
この後、参加者は3つの班に分かれて移動しました。バスを乗り継いで等々力渓谷に移動し、最後の見学を行った班、東宝スタジオの傍を通りゴジラ像を見ながら駅に向かった人たちも。さらに、多摩川土手で紫金山アトラス彗星の即席観望会・写真撮影を行った人たちもいました。
参加者からの感想(アンケートより一部抜粋)
- コンパクトに湧水群を巡れたこと。喜多見不動の防空壕跡の中でローム層の中をしっかり観察できたことがとても印象深かった。
- 地層や地質を見ながら先生方からご説明いただき、知識欲が満たされました。また、一緒に参加された方も地学に興味をお持ちで、同じ趣味を持ったもの同士で会話を楽しませていただきました。
- 先生方に多く参加頂き、様々な地学話が聞けたのがよかった。巡検前に座学があると理解がもっと深まるかもしれない。
- 地学のダイナミックさは他の分野にはなく、再び学び直したいと改めて感じました。
- 幅広い見識のある方との交流ができ、勉強になりました。これからも定期的に行っていただきたいです。
- 思いがけず彗星観察までご指導していただき、ありがとうございました!
巡検Cは参加者が大変多く、講師の藤平先生1人ではとても説明の声が届かないと危惧していました。ですが、同行したスタッフも熱心に説明に加わることで、集団が分断されてもそれぞれ満足いく説明を受けられたこと、これが巡検全体の成功につながったと感じます。
講師の藤平秀一郎先生には配布資料作成から当日の案内まで熱心にご対応下さり、心より感謝申し上げます。また、サポートいただいたスタッフ講師の先生方にも、御礼申し上げます。
地図講座 巡検D 「地層の走向傾斜を測りながら大地の成り立ちを考えよう」
日程
11月17日(日)
場所
神奈川県三浦市 城ヶ島
講師
杵島正洋 (慶應義塾高等学校)
天気は快晴、むしろ汗ばむほどの行楽日和。京急三崎口駅に集合したのは、参加者27人とスタッフ7人。参加者は高校1年生(16歳)や大学院生(24歳)から上は84歳まで、幅広い年齢層の方々が城ヶ島巡検に参加しました。
この巡検の目的は、1.クリノメーター(講師の勤務校から貸与)の使い方を学びながら、地層の傾きの変化を追跡する、2.地層に見られるさまざまな堆積構造を読み取る、3.過去から現在までの地質形成史を復元する、の3本柱です。城ヶ島は地質学的にとても見どころが多く、こうした見どころに目を奪われすぎると、全体像を把握することが難しくなります。見どころを時代や状況で整理しながら、城ヶ島の北西から南西側を進み、馬の背洞門を目指します。
最初の地点、灘ヶ崎では、クリノメーターを使った走向傾斜の測定法を学びました。参加者は、慣れない道具を使うのに四苦八苦していましたが、今回も、多少経験のある参加者やスタッフが説明する側にまわり、初めての人も次第に上手に計測できるようになりました。また、タービダイト堆積物に特有な級化層理(上方細粒化)や、スコリア粒子の特徴なども観察しました。
1時間ほどここに滞在し、地層の走向傾斜を測る練習をしたり、地層の観察をした後、少し南の通称「観光橋」へ。ここでスランプ褶曲の観察をしました。いつ見ても不思議な構造です。
橋を移動して島の南西部、長津呂崎へ。建て替え工事中のホテルの脇を抜けると、一面広々とした岩畳が広がります。走向傾斜を測ると、傾斜は徐々に緩やかになっています。サンドパイプ型生痕化石、無数の断層群、有名な火炎構造など、特徴的な構造をたくさん観察しました。
長津呂湾奥の周辺で軽食休憩を取り、馬の背洞門を目指します。地層の傾斜はさらに緩やかになり、南岸では逆向きに傾く、つまり向斜軸が確認できます。地質構造には斜交層理が目立つようになり、堆積場が極めて浅くなってきたことがわかります。
馬の背洞門は岩盤が波に穿たれてできた海蝕洞です。岩盤には斜交層理やシルトの偽礫がはっきり見え、浅海底それも河口に近いところでの堆積層だとわかります。洞門のすぐそばの崖を登り、基盤岩とローム層の境界を確認したら、台地の上から今日見てきた場所を見下ろしつつ、今日の振り返りをします。遠方には伊豆大島や伊豆半島が見え、その手前に相模トラフが潜んでいます。ここで付加体が押し付けられ、隆起しながら変形を受け、最後に海面上に露出して風化侵食を受ける、そんなダイナミックな大地の成り立ちを学ぶことができました。
城ヶ島バス停で解散。一部の人は三崎港で下車し、半島側のスランプ構造を見に行くなど、最後まで元気に観察していました。参加者の熱意を最後まで感じる巡検になりました。
参加者からの感想(アンケートより一部抜粋)
- ただの珍しい景色だった城ヶ島が、地層が露出した興味深い場所として歩くことができました。クリノメーターの使い方、地層の3次元的な構造の捉え方などが新鮮でした。現場現物現実で知識を得る機会を作ることは意外と難しいのですが、そういう機会を設けて頂いて感謝です。
- 暖かな陽気の中、楽しく巡検をさせていただきました。 巡検Cでお会いした方も多く、以前からの仲間のように楽しく会話をしながらあっという間の1日でした。
- 城ヶ島は初めてでしたが、先生方の丁寧な解説で初学者の私もよく理解できました。地学に関わる方々とたくさん話し、地学を学びたいという意欲がこれまで以上に増しました。皆さんと年齢は離れていましたが、いろいろ話しかけてくださって本当にありがとうございます!
- スタッフの先生からチラシをいただき、最初は行くか迷いましたが、ほんっっっとうに来てよかったです。専門家の方から解説をしていただきながら巡検できる大変貴重な機会を経験することができ非常に有意義な時間となったとともに、多数の地学教員の方と話すことができ、何にも代え難いものとなりました。
- ポイントごとに丁寧な説明をしていただき、ありがとうございます。参加された方の熱心さにも感動しました。
行事委員会 「地図講座」担当 杵島正洋