平成25年11月
ジオマイスター 金田玄一
去る11月2日に東京地学協会が主催し、筑波山地域ジオパーク推進協議会、地質情報整備活用機構(GUPI)、産総研地質標本館、ジオネットワークつくば(GNT)が協賛した題記のジオツアーにスタッフ参加しましたので、概要を報告いたします。
本ジオツアーの企画と現地案内・説明は、主に産総研の加藤名誉リサーチャー(兼東京地学協会理事)が行われ、西岡主任研究員(花崗岩の専門家)が花崗岩・斑レイ岩等の深成岩関連の説明、住田研究員が広く筑波山地域の地学全般の補足説明、そして私は迷子の人が出ないようにアンカーを担当しました。 当日は秋晴れとは行きませんでしたが、9時のつくば駅集合から17時つくば駅での解散まで雨には濡れずに充実したジオツアーを開催でき、11名の参加者も満足げに帰路に着きました。
本ジオツアーは筑波山の山頂と周囲の、筑波山地域ジオパークのジオサイト候補地を時計回りにバスで一周するコースで行われ、観察したジオサイトについてそれぞれ以下に説明いたします。
スケジュール
集合・出発
つくば駅前の集合場所には9時に計15人全員がそろい、マイクロバスに乗り込み、一路、筑波山に向かって出発しました。
筑波山ケーブルカー
山頂まではケーブルカーで移動、「途中の花崗岩から斑レイ岩に変わるところで、風化の速度が異なることから、傾斜が変わる」との住田さんの説明に、みな五感を集中。そして頂上に到着。
筑波山自然研究路(つくば市)
自然研究路では、セキレイ石、ガマ石、立身石などを観察して回りました。
(1)セキレイ石
男体山と女体山の間、茶屋の庭先にあり、地学的には特に特徴がない斑レイ岩ですが、男体山に祀られているイザナギノミコトと女体山に祀られているイザナミノミコトとが夫婦になろうとしたときに、この石の上に鳥のセキレイが止まり、男女の道を教えたという言い伝えがあるとのことです。
(2)ガマ石
セキレイ石より更に女体山よりにあるガマ石ですが、よく見ると口にあたる部分が白くなっています。これは斑レイ岩がマグマ溜まりの中で対流し重力分化で層を成し、白いところは斜長石の比率が高い部分とのことです。 また、口にあたる白いところが丸まっているのは風化ではなく、登山者が運だめしに小石を投げ入れようとしてぶつかり磨耗したためとのことです。
(3)立身石
男体山近くの自然研究路わきにあり、東国布教に来た親鸞聖人がこの場所で念仏を唱え、餓鬼を救済したという言い伝えや、地元出身の間宮林蔵が少年時代に出世祈願をした場所とも言われています。 立身石は10mを越す大きな斑レイ岩の岩塊であり、正面には地学的な特徴は特にありませんが、背面に回ると斑レイ岩の層状構造が発達し更にそれが褶曲して、風化により凸凹が生じた結果、折れ曲がった帯状の模様がある岩肌が観察できました。
そして立身石の側面には、水平方向に5~8cmぐらい伸びる幅1cm弱の結晶からなる角閃石の帯状集合体あり、垂直方向に50cmぐらい続いているのが観察できました。 このように、立身石は文化的にも地学的にも特徴が多くあるジオサイトだと認識しました。
その後、ケーブルカーで下山して午前の部は終了。筑波神社前の神田屋でしっかり昼食をとり、各自で休憩し午後に備えました。
午後は再びバスに乗って、月水石神社、飯名神社、真壁トライアルランド、石岡市の球状花崗岩の見学・観察に出かけました。
月水石神社(つくば市)
筑波山神社の少し下の山腹にひっそりと鎮座している神社で、イザナギ、イザナミノミコトの第4子のイワナガノヒメを祀っている神社です。
月水石という大きな石があり、名前の通り月に一度赤い水を流すとの言い伝えがあるとのことです。
上の写真は月水石神社の境内にあった斑レイ岩の転石で、大きな普通輝石の結晶を含んでいました。
【コラム】
今回見た筑波山の斑レイ岩には、角閃石や普通輝石の結晶が認められました。上図は有名な火成岩の成分構成表ですが、表からも分かるように輝石やカンラン石は花崗岩には普通は含まれていない鉱物です。また、斑レイ岩には普通は石英や黒雲母が含まれていないことも分かります。
飯名神社(つくば市)
月水石神社から約500mほど下った筑波山の麓にある神社で、古く奈良時代からあり、江戸時代からは稲野(飯名野)の弁天として近隣の人々の崇敬を集めていたとのことです。 社殿の奥に陰陽石が祭られていて、女石に当たる大きな斑レイ岩転石の上に男石に当たる1mぐらいの石が立てられていました。この男石は、住田さんの鑑定で、斑レイ岩ではなく筑波変成岩だということが分かりました。
真壁トライアルランド(桜川市)
ここはジオマイスター研修時の筑波山周辺巡検でも訪れたジオサイトですが、昔の花崗岩採掘場を利用して現在はオートバイのオフロード競技の一つであるトライアル競技の練習場になっています。そしてここは花崗岩マグマが複雑に貫入し合った構造をしていて、西岡主任研究員に説明をして頂きました。
筑波山周辺の花崗岩には、筑波山花崗岩、加波山花崗岩、稲田花崗岩がありますが、ここでは筑波山花崗岩と加波山花崗岩が接している露頭が観察できます。 両花崗岩の接触面をよく観察すると、筑波山花崗岩中の細い岩脈の途切れ方などから、筑波山花崗岩に後に加波山花崗岩が貫入したことが分かります。放射線年代測定でも両花崗岩の年代差は測定できず、あまり時間をおかずに形成されたとの説明がありました。
またここには、黒くて玉ねぎ状構造をした細粒苦鉄質岩の塊がありました。これは周りの花崗岩とは明らかに色が違い、花崗岩に取り囲まれているのがよく分かります。この岩塊は、昔は花崗岩マグマに取り込まれて上昇してきた捕獲岩と考えられていましたが、最近では花崗岩マグマに貫入した苦鉄質マグマが固まったものと考えられているそうです。
球状花崗岩〔小判石〕(石岡市)
桜川市の真壁トライアルランドからバスに乗り県道7号を進み、峠を越えた峰寺山の山腹に、舞台造りで「関東の清水寺」の別称がある西光院があります。その西光院の道を隔てた反対側の崖を30mぐらい下った岩壁に、その形状から「小判石」と呼ばれている茨城県の天然記念物の「球状花崗岩」の露頭があります。
しかし、球状花崗岩は既に岩壁から離脱しており、その離脱した後の穴もコケが生えていて、周囲が暗かったために分かりづらかったのは残念でした。アクセス道や階段は整備されているので、ジオパークになる前に説明パネルなどの設置が望まれるように思われました。 そして、ここの球状花崗岩の研磨標本が地質標本館の第4展示室にあり、そこには、主に泥岩が熱変成してできる、菫青石と表示されています。
帰 路
石岡市からは、県道150号(通称フルーツライン)を通り、途中フラワーパークに立寄りました。フラワーパークの物産館には近隣の農家が持ち込んだ、採れたて野菜や果実、菓子類などがたくさん売られていて、私は秋の味覚、柿、栗、銀杏を買って帰りました。 その後、昨年の11月に開通した朝日トンネルを通り、つくば市内に戻り、予定時間通りの17時ちょうどにつくば駅に到着し、解散となりました。
今回のジオツアーを主催している東京地学協会では、このような国内ジオツアーを年1回開催するほかに、東京麹町の協会会館ではほぼ毎月講演会を開催しています。また来年2月には有名なオマーンのオフィオライトを見学しに行く海外ジオツアーを計画しているそうです。