「東京都産のトウキョウホタテ標本を探る」

▲川辺文久(文部科学省)

日 時

平成30年3月16日(金)14:00から15:30まで

場 所

東京都千代田区二番町12-2 東京地学協会(地学会館)講堂

参加者数

11名

講演内容

 Mizuhopecten tokyoensis (Tokunaga) は食用のホタテガイに近縁の絶滅二枚貝である。1906年、徳永重康によって北区に分布する王子貝層の標本をもとに提唱され、東京に因んで種小名はtokyoensisと命名された。一般にトウキョウホタテと呼ばれる。昭和40年代頃まで、武蔵野台地東端の崖、台地を刻む石神井川や神田川沿いの露頭や河川改修工事、鉄道工事場など都内各地で本種が採取されてきたことが知られており、2016年には日本地質学会が「東京都の化石」に選んだ。

 トウキョウホタテは北海道南部から九州、済州島、台湾にかけての中部鮮新統から更新統で産出し、なかでも千葉県や茨城県で採取される標本は保存が良く大型であることから有名である。化石図鑑の常連で、小学校6年理科の教科書では地域の自然の例として、中学校1年理科や高等学校地学基礎の教科書では第四紀の示準化石の例として図示されている。ところが、都市化が進んだ武蔵野台地東部では“東京層”の露頭のほとんどが消滅しているため、貝化石の専門家でない限り、東京都産のトウキョウホタテ標本を目にする機会は乏しいのが現状である。

 演者は都市部の地質情報への関心が高まっていることや東京都の化石の選定をきっかけに、トウキョウホタテの産出記録と標本の保管・展示状況を調査した。その結果、東京大学、国立科学博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、早稲田大学、地質標本館、渋谷区郷土博物館、北区飛鳥山博物館、板橋区立郷土資料館の貝化石コレクションのなかに東京都区部(12区29地点)で採集されたトウキョウホタテ標本が含まれていることが分かった。我が国の地質学の黎明期以来の研究の参照標本、研究者が体系的に収集したコレクション、区民からの寄贈標本が関連機関の歴代スタッフの尽力によって守り継がれてきたのである。

 特に、都市地質に対する興味関心の喚起や地質学研究における標本利活用の増進のために、後世に伝えるべき標本や資料の整理、保管が重要である。

配付資料

  1. 中島礼・加瀨友喜・川辺文久(2018)ブラウンスが報告した東京の露頭 GSJ地質ニュース7-3 63-64口絵
    https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol7.no3_p63-64.pdf
  2. 川辺文久(2018)東京都内の郷土館における更新世貝化石の展示 GSJ地質ニュース7-3 65-66口絵
    https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol7.no3_p65-66.pdf
  3. 川辺文久・中島礼・加瀨友喜・田口公則・佐々木猛智・守屋和佳(2018)東京都区部産のトウキョウホタテの産出記録および標本保管 GSJ地質ニュース7-3 67-79
    https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol7.no3_p67-79.pdf
  4. 川辺文久・芳賀拓真(2018)板橋区産の第四紀更新世貝化石 平成29年度特別展水のゆくえ~荒川の歴史~図録 板橋区郷土資料館88-96
  5. 板橋区立郷土資料館特別展ちらし
    (講演スライド5ページ参照)

展示資料

▲トウキョウホタテの化石

昭和47年に板橋区中板橋の石神井川改修工事場で採集
板橋区立郷土資料館蔵

意見交換

会場:トウキョウホタテの化石の特徴、それ以外との違いはあるか。
演者:トウキョウホタテの化石は密集して産出することが多い。
会場:水に流されて密集する可能性はないか。
演者:摩耗しているものと、摩耗していないものがあり、何とも言えない。
会場:縄文時代には絶滅していたのか。
演者:そうらしい。
会場:地質調査所の渡邊久吉採集の標本が未確認とのことだが、木挽町時代の標本はほとんど残っていない。
演者:情報ありがとうございます。
会場:トウキョウホタテは全国的に分布し、現生のホタテガイは北日本にしか生息しない。その違いの要因は何か。
演者:トウキョウホタテの時代がずっと寒冷だったわけではない。今回紹介したトウキョウホタテを産出する地層は間氷期のものだ。温度以外の湾内外の地形的な条件が、今現在より生息に適していた可能性もある。
会場:1万2千年前の化石の報告があるようだが、産出位置はどこか。
演者:鹿児島。その他にも日本沿岸の海底のドレッジで更新世末期のものが引き上げられている。