「温泉と地熱発電との共存について」

▲大山正雄(一般社団法人日本温泉協会)

日 時

平成28年5月20日(金)15:00から16:30まで

場 所

東京都千代田区二番町12-2 東京地学協会(地学会館)講堂

参加者数

20名

講演内容

1:はじめに

 2011年の東北地方太平洋沖地震による東京電力福島第一原子力発電所の爆発・崩壊を契機に全国の原子力発電所が停止されたこともあって、将来の電力不足の懸念から地熱発電がクローズアップされた。現在、稼働している地熱発電所は古来からの温泉地が多く存在する第四紀火山地域である(図1)。地熱発電の利用エネルギー源は生産井から湧出する地下1000m~3000mの熱水貯留層中の200℃以上の高温高圧の熱水である。その深部熱水は温泉の源でもあり、地表に湧出したのが温泉である(図2)。従って、地熱発電と温泉とは競合関係にあり、共存問題は大きな課題である。

2:地熱資源

 事業用の15地熱発電所での湧出利用総蒸気熱量は、箱根や別府などの約190カ所の主要温泉地の総温泉熱量(20兆kcal/年)とほぼ等しい。単純計算で地熱発電所1カ所は12カ所の主要温泉地の総熱量に相当する。日本最初の事業用地熱発電所は1966(昭和41)に岩手県松川で、翌年の大分県大岳から1998(平成10)年までに13地域15カ所で稼働している。

 総発電電力量は発電所増設と共に増加したが、発電所数が一定となった1998(平成10)年以降は経年的に減少している(図3)。これは自然循環(供給)を上回る熱水の過剰採取であり、持続可能な資源利用でないことを示唆している。そして温泉地が明治時代以降の掘削井による温泉量増強で経験している自然湧泉の消滅、各掘削井の湧出量、泉温、溶存成分の経年的減少と同じ道を歩み、熱水貯留層の熱水は「化石熱エネルギー」の概念を補強している。温泉利用量はすでに温泉法などで制限している。それにもかかわらず地熱発電所を更に2~3倍にしようとの開発が進められている。

 地熱発電所のもう一つの問題点は湧出する高温高圧下の熱水にヒ素などの有害物質を高濃度に含んでいる為と熱水貯留層への水補給とによる湧出熱水の地下還元である。その際に還元井と地層の目詰まりとなる熱水から析出する無水ケイ酸などの固形物を溶かす硫酸などが還元水に注入されている。この還元水は地下環境汚染をもたらす共に周辺の温泉地に再湧出する可能性(図2)を有している。

3:地熱発電と温泉地との共存について

 現在、地熱発電量を増加するため、熱源の豊富な火山地域の国立公園内での開発規制が緩和された。そこは主要温泉地の場でもある。日本の温泉は年間1億2千万の宿泊者、2000万人の訪日外国人の観光資源でもある。経済的には土産や交通等を加えれば数兆円、そして数十万人の雇用を生んでいる。現在の地熱発電の発電電力量は日本の総電力量の0.2%で、5倍にしても1%にすぎない。それにもかかわらず地熱発電増加は温泉地に温泉の枯渇や汚染をもたらすことが想定される。従って、温泉地と地熱発電所との共存は困難と考えられ、地域分けなど慎重でなければならない。

▲図1:熱階級Ⅲ以上の主要温泉地と地熱発電所
▲図2:地熱貯留層の概念図
▲図3:地熱発電所の許可出力と発電電力量の推移