2014年6月14日(土)東京地学協会講堂で、漆原和子氏(法政大学)による「スロベニアのカルスト地形」の講演が行われました。内容は以下のとおりです。


 2014年9月6日から9月13日に実施される東京地学協会海外見学旅行の概要を示しつつ、カルスト地形について紹介することをこの講演会の目的とした。

 日本の石灰岩の地域は国土面積の0.5%に満たない。しかし、世界的には陸地面積の約12%であると試算されている。なかでも旧ユーゴスラビアは国土の3分の一が石灰岩であった。今回はカルストの名称の発祥の地であるスロベニアのクラス地方(カルスト地方)を中心にクロアチア北部に至る中生代石灰岩地域の典型的カルスト地形を紹介する。

 スロベニア北部のユリスケアルプスでは最終氷期に雪線高度は1100mまで低下していた。このため豊かな氷食地形が残されている。しかし、その山地には氷食を受ける前にすでに形成されていたカルスト地形が残る。また鍾乳洞はそのほとんどが垂直のピットである。

 石灰岩の地域はその排水系に特色がある。スロベニアの石灰岩地域の地下水系の分水界はポストイナである。内陸のパノニアン平原に向けての排水系には。ポリエ群が形成されている。高度約780mのLosko Polje, 550mのCerknisko Polje, 540mのPlaninsko Polje, 480mのLogatec Poljeへと次第に低下し、最終的に非石灰岩地域をながれるサバ川に流入する。このポリエ群はIdria 断層に沿って形成されている。ここで最も典型的なポリエとその排水システムをみることができる。ポリエはカルストスプリングから地下水が湧き出て、ポリエの中を表層流として流れ、ポリエの末端でポノールとして吸い込まれ地下水系をなして流下する。春先は雪どけ水を排水しきれなくなり、ポリエの中は洪水になる。したがってポリエの中の平地はこのリスクを考慮し、牧草地として利用している。

 ポストイナからアドリア海に向けて、標高約400mから100mに至るカルスト台地がひろがる。この台地では雨水は地下水系を経由し、アドリア海岸に排水される。地下川は豊かな水が流下し、アドリア海岸(イタリア)で湧出する。しかし、台地上は乾燥していて、飲み水は屋根の水を集水しなければならない。冬は内陸からの寒風ボラがアドリア海に向けて吹きだすので、地中海性の農産物は作付不可能である。この台地には形成時代が不明であるが、規模の大きいドライバレーが存在し、過去に流水が豊かであったことを物語っている。この台地の標高400m付近には、UNESCOの世界自然遺産であるSkocjan caveがある。規模の大きいカルストウインドウと地下川が作る峡谷があるので、これを観察する。

 クロアチアではUNESCOの世界遺産であるプリティビツェのトゥファダムを見る。世界で最も大規模で、かつ美しい石灰華段丘が作る127の湖を見る。ここからポリエを経て、アドリア海岸にでて、海水中に淡水が湧き出ているのを観察する。この行程では内陸からデイナルアルプスを経てアドリア海にいたカルストの排水システムを観察することができる。

 以上の行程で、ほぼカルスト地形の特色を把握できるものと考える。できれば多くの皆様が現地への見学会に参加されることを望みます。

 出席者数20名