恒例の秋季講演会(11月)の予定が決まりましたのでお知らせします。一般(非会員)の方々も気軽にご参加下さい。多数の方々のご来場をお待ちしています。

「伊能忠敬と現代の地図作り」

 伊能忠敬が「大日本沿海輿地全図」を完成させてから200 年という時間が経った。この間に測量の技術は大きく進歩し,新しい技術や地図づくりの仕組みが誕生している。この講演会では,星埜氏に,日本の地図づくりの原点ともいえる伊能忠敬の業績について解説いただく。田中氏には,近年の新しい地図づくりの技術について解説していただく。古橋氏には,だれでも地図づくりに参加でき,編集,利用ができるオープンストリートマッププロジェクトについて解説していただく。地球の表面の形態を正確に記述するという根本かつ大変難しい課題に,これまでどのような取り組みが行われてきたのか,また,現代ではどのような新しい動きかがあるのか,そしてそれらを通して,地図づくりの根本にあるものについて理解を深めたい。

目代邦康(日本ジオサービス株式会社)

日 時

平成28 年11 月26 日(土) 14:00 から

 14:00 ~ 14:05 野上道男会長挨拶
 14:05 ~ 14:10 目代邦康 「秋季講演会—伊能忠敬と現代の地図作り—のねらい」
 14:10 ~ 15:00 星埜由尚 「伊能忠敬の全国測量と測量日記」
 15:00 ~ 15:50 田中 圭 「低空撮ツールによる3Dマッピング」
 15:50 ~ 16:40 古橋大地 
         「一億総伊能化を実現するオープンストリートマップ・プロジェクト」
 16:40 ~ 17:00 総合討論

場 所

東京都千代田区麹町5-1 弘済会館4 階「蘭の間」

交 通

JR 総武線・中央線「四谷駅」下車 麹町口より徒歩5分
地下鉄丸の内線・南北線「四谷駅」下車 1番出口より徒歩5分
地下鉄有楽町線「麹町駅」下車 1番出口より徒歩5分

要 旨

講演1「伊能忠敬の全国測量と測量日記」

星埜由尚(日本測量協会)

 伊能忠敬は,1800年から1816年まで自らの弟子と幕府天文方下役から成る測量隊を率い,10次にわたる全国測量を敢行した。伊能測量隊が作成した地図は,「伊能図」と総称されている。

 伊能測量隊が幕府に提出した正本である「大日本沿海輿地全図」は,焼失したとされているが,副本や明治初期に模写された伊能大図と詳細な日記を通じて伊能忠敬の全国測量の全貌を知ることができ,測量日記は,伊能忠敬の全国測量に関する必須の資料となっている。

 伊能忠敬は筆まめであった。10次にわたる全国測量のすべてを日記として残している。日記には,個人的な感想など主観にわたることはあまり述べられていない。毎日の測量の行程,宿泊地,測量の距離,村名,家数,訪問者のことなど,事実に属することが連綿と記述されている。日記の記述は,測量次数を追うごとに詳細になっており,寺社などに関する記載が詳しくなる。日記は,編集して作成されたものであり,測量成果をまとめて地図作成を行う際に役立て,後世に残す記録として作成されていることがわかる。

 測量日記は,香取市佐原の伊能忠敬記念館に所蔵され,国宝の指定を受けているが,公刊されたものがあり,それにより伊能図とあわせ,伊能忠敬の全国測量のさまざまな面が明らかになる。

参考文献 佐久間達夫(1998)「伊能忠敬測量日記」大空社
      デジタル伊能図(2015)河出書房新社刊    

講演2「低空撮ツールによる3Dマッピング」

田中 圭(一般財団法人日本地図センター)

 最近の地図に関する技術革新によって,誰でもが簡単に地図(3Dデータも含む)の作成が可能になった。とくに,ここ1~2年の間に急速に身近になった「ドローン」によって,欲しい時に低空からの空撮画像を簡単に得られるようになったのは大きい。演題にある低空撮とは,地上から対地高度150mまでの間で撮影することを指しており,ドローン以外にも係留気球やカイト,ポールカメラ,自動車といった身近なプラットフォームで撮影することを含んでいる。

 一方で,低空撮技術の普及と時を同じくして,撮影した画像から3Dデータや地図を作成することができるSfM(Structure from Motion)-MVS(Multi-View Stereo)ソフトの普及が,低空撮画像の利用シーンを大いに拡大させた。SfM-MVSはすでにコンピュータビジョン分野で確立された技術である。SfMは対象物をカメラの視点を変えながら撮影した複数枚の画像からカメラの撮影位置を推定する手法で,それらの位置から3D形状を復元するのがMVS技術である。これらの処理技術は,従来から地図作成に使われているデジタル写真測量のような専門的な知識がなくても,簡単に3Dデータやオルソ画像,DSM(Digital Surface Model)を作成できるようになった。そのため,現代の地図づくりの技術的な壁は低くなってきている。

 本発表は,低空撮ツール(ドローン,ポールカメラ,ドライブレコーダー等)を用いた地図作成の事例やそれ以外の分野での利活用の事例について報告する。

講演3「 一億総伊能化を実現するオープンストリートマップ・プロジェクト」

古橋大地(青山学院大学/オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン)

 2000年を境にネオジオグラファーと呼ばれる人々が増えてきた。従来のジオグラファーは,専門教育を受け高品質な地図を作成し分析する知識をもちあわせた,いわゆる地図利活用のプロフェッショナルな立場であった。しかしこの年を境にしてGPSによる衛星測位の精度を意図的に下げていたSAと呼ばれる信号劣化処理を米国政府が解除し,水平方向で誤差数mの現在地特定ができるようになった。

 この技術的革新によってGPS端末をもつすべての人が誰でも簡易に測量行為を行うことができ,それまで考えられなかったようなさまざまな地図サービスを高度に発展させる時代へと突入した。つまり専門教育を受けずとも,誰でも伊能忠敬のように地図をつくれるようになった。彼らのことをネオジオグラファーと呼ぶ。彼らの特徴として自分の位置をもとに気軽に地理空間情報をつくり,多くの友人や不特定多数の人々とシェア(共有)する文化が生まれた。

 オープンストリートマップはまさに,自分たちが測量した情報を世界中の仲間と共有することによって,誰もが自由に使える世界地図が実現できるのではないか,という大きなゴールを目標に,2016年現在約300万人以上のボランティアマッパーと呼ばれる人々が地図を更新し続けている。われわれ日本人マッパーはこのゴールを「一億総伊能化」と表現し,日本人一億人,世界70億人すべての人々が伊能忠敬のように地図をつくれる時代の到来を目指し,日本国内では2008年から本格的な活動をはじめている。

 本講演ではその経緯と現在実現できていること,そしてこれからの課題について紹介する。