地学クラブ第296回講演会(5月)の予定が決まりましたのでお知らせします。一般(非会員)の方々も気軽にご参加下さい。多数の方々のご来場をお待ちしています。
日 時
平成28年5月20日(金)15:00から
場 所
東京地学協会 地学会館二階 講堂(東京都千代田区二番町 12-2)
交 通
東京メトロ麹町駅5出口を出て左へ徒歩1分
日本テレビ向い JR市ヶ谷駅から徒歩7分、四ッ谷駅から徒歩9分)
温泉と地熱発電との共存について
講演者
大山正雄(一般社団法人日本温泉協会)
要 旨
2011年東北地方太平洋沖地震による東京電力福島第一原子力発電所の爆発・崩壊を契機に、全国の原子力発電所が停止されたこともあって、将来の電力不足の懸念から発電目的の地熱開発が急速にクローズアップされた。現在、稼働中の17地熱発電所は草津や別府などの主要温泉地の分布する第四紀火山帯に位置し、温泉源でもある深部の高温高圧(200℃前後)の気液混合流体を掘削(生産)井で噴出させ、その中の蒸気で発電している。事業用14の地熱発電所の利用総蒸気熱量(21兆kcal/年)は、日本の火山噴火等による年平均総放熱量(14兆)のおよそ1.5倍と推定され、また、主要温泉地約190所の総温泉熱量(20兆)に匹敵している。
地熱発電所の多くは稼働から数年すると発電電力量が年々減少している。生産井の蒸気量の減少と温度低下から推して、深部の水と熱の収支が崩れ、熱水の涸渇が原因と推定される。深部熱水はヒ素等の有害物質を高濃度に含んでいる。蒸気は大気中に放出されるが、熱水は地下への補水のためもあって還元井で戻している。その際に孔井内の目詰り防止を目的に硫酸が還元水に注入される。この還元水は地下環境汚染を引き起こしつつ周辺温泉に再湧出する可能性を有している。
現在、地熱発電所は主要温泉地から離れて立地しているが、発電量を3~5倍以上にするため、熱源の豊富な国立公園内での開発規制が緩和された。そこは主要温泉地の場である。地熱発電所は温泉地に限りなく近づき、温泉資源の枯渇と汚染が一層危惧されている。
日本の温泉は、今日、年間1億2千万の宿泊者、数千万の日帰り利用者がいる。土産や宿の食材、交通等を加えれば数兆円の経済規模となり、数十万人の雇用を生んでいる。年間2000万人の訪日外国人の観光資源ともなっている。日本の温泉利用量はすでに限界に達し、制限している。現在の地熱発電の発電電力量は日本の総電力量の0.2%で、5倍にしても1%である。また、地熱発電所は無人化できる。これらを考慮すると温泉地と温泉の源をさらに利用する地熱発電所との共存は困難と考えられる。