第308回地学クラブ講演会(12月)の予定が決まりましたのでお知らせします。一般(非会員)の方々も気軽にご参加下さい。多数の方々のご来場をお待ちしています。

日 時

平成30年12月14日(金)14:30~16:50
    14:30から 小疇 尚 氏
    15:40から 佐野晋一 氏

場 所

アルカディア市ヶ谷(会場は当日入り口に掲示します。)
東京都千代田区九段北4-2-25 (電話)03-3261-9921

交 通

地下鉄有楽町線・南北線・新宿線・JR中央線「市ヶ谷駅」下車2分

講演1「北海道十勝地方のアースハンモック」

講演者

小疇 尚(明治大学名誉教授)

要 旨

  アースハンモックは草や矮小灌木に覆われた、径1~2m、高さ数十㎝の土饅頭で、永久凍土分布地から冬半年地面が凍る季節凍土分布地まで広範囲に分布している。北海道の低地では60年前に初めて発見され、「十勝坊主」と名付けて報告された。その後、他地域でも確認されているが、全道的な分布は調べられていない。

 十勝地方では、地元の研究者などの協力を得て約十カ所で分布を確認し、そのうち数か所で凍結状態を観測中である。今のところ一カ所単年度のデータしか得られていないが、そのデータと観察結果から十勝地方のアースハンモックには、凍結の作用を強く受けて活動中のものとそうでないものがあり、後者の方が多いことが分かった。その原因として、開発事業による地下水位の低下と、それに伴う植被の変化が指摘されているが、むしろ気候温暖化とくに最低気温の上昇に伴う土壌凍結の弱化によるところが大きいと考えられる。

講演2「ミャンマーの石灰岩から白亜紀中頃の礁性生物の進化史を探る」

講演者

佐野晋一 富山大学大学院 理工学研究部(都市デザイン学系)

要 旨

 白亜紀中頃は,高海水準で,極域にも氷床が発達せず,著しい温暖化が進んだ“温室地球”期として知られる。テチス海域を中心に大規模な炭酸塩岩プラットフォームが発達したが,その主役はサンゴではなく,奇妙な形態を持つ二枚貝(厚歯二枚貝)であった。厚歯二枚貝の研究は“温室地球”期における海洋環境を議論する上で注目されるが,従来の研究は主に地中海区やカリブ海区で行われており,太平洋域やテチス海東部地域に広大な研究の空白域が存在していた。近年,講演者や共同研究者により,日本やフィリピン,チベット南部などにおいて,前期白亜紀の厚歯二枚貝の研究が進められ,これらの地域で顕著な多様化を遂げたグループや,後期白亜紀に汎世界的に栄えたグループの祖先形の存在が認識されるなど,新たな知見が明らかにされつつある。

 太平洋域では前期白亜紀末で礁性生物化石の記録がなくなるため,白亜紀中頃の礁性生物進化史を考える上で,太平洋域とテチス海東部地域の中間に位置するインドシナ半島の記録が注目される。ミャンマー北部には,同半島では唯一となる,白亜紀の礁性石灰岩の分布が知られるが,古生物学的研究は60年以上前に大型有孔虫オルビトリナが記載されたのみにとどまる。今回,日本とミャンマーの共同調査により,オルビトリナ類や大型巻貝のネリネア類に加えて,豊富な厚歯二枚貝や二枚貝Chondrodontaなどの礁性生物の産出を確認することができた。厚歯二枚貝相はチベット南部の前期白亜紀末のものと酷似しているが,太平洋域と西南アジア地域のみからしか報告がない属も含まれており,本地域が当時「西南アジア-太平洋生物地理区」に属していたことが示唆される。また,本地域の石灰岩体はかなり大規模で,追加情報を得られる可能性が高く,ミャンマーの礁性生物相の研究は,白亜紀中頃の生物地理区の消長や変遷を議論する上で,今後重要な役割を果たすものと期待される。