概要
地震学は、研究のためのデータや手法に制約が大きく、研究成果がただちに高精度の予測につながりませんが、精度の乏しい予測でも社会に提供せざるを得ません。その結果起こる事例について、2011年の東日本大震災の後に起きた裁判と2009年のイタリア・ラクイラ地震の後に起きた裁判を例にお話しいただきました。
講演名
「地震の予測と社会:日本とイタリアの地震裁判から」
講演者
纐纈一起(東京大学地震研究所)
日時
2020年1月27日(月)13:00~14:00
場所
東京地学協会地学会館2階講堂
講演要旨
地震という自然現象を扱う科学は地震学と呼ばれ、地震防災という側面で社会と強くつながっています。起こってしまった地震災害を防止したり減らしたりすることはできませんので、防災は当然、今後起こる将来の地震災害が対象となります。将来の地震災害に対して対策を立て防災を実現するには、その災害を引き起こす地震を予測しなければなりません。この予測を通して、科学が防災に関係してくることになります。
ところが、地震学には三重苦ともいえる大きな制約があります。まず第一に、研究対象となる地震は、災害につながるような大地震なら数十から数百キロ規模と非常に大きく、実験ができません。第二に、そうなると過去に起こった地震のデータを分析して研究するわけですが、大地震は海で起こるものなら数百年に一回程度、陸で起こるものは数千年に一回程度しか起きないので、なかなかデータの蓄積が進みません。そして第三に、地震のおおもとは地中の岩盤が破壊する現象なので、理論的に研究することにも限界があります。
このように地震学は、研究のためのデータや手法に制約が大きく、その研究成果がただちに精度の高い予測につながるような状況にはありません。しかし、いったん大地震が起これば社会に大変大きな影響を与えるため、防災のための予測を社会から強く求められ、精度の乏しい予測でも社会に提供せざるを得ない状況にあります。その結果、起こったことは、2011年の東日本大震災の後に起きた裁判と2009年のイタリア・ラクイラ地震の後に起きた裁判の内容から分析することができます。