東京地学協会は,2020年度東京地学協会メダルを贈呈した東京大学名誉教授 荒牧重雄博士による受賞記念の講演会を開催しました。

 この講演会は,2020年秋に実施する予定でしたが,COVID-19への対応のため延期されていました。このたび2022年11月12日(土)にアルカディア市ヶ谷(私学会館。)(東京都千代田区)の6階「阿蘇」にて,国際地球多様性の日 (IGD:International Geodiversity Dayの仮訳) 協賛行事として実施しました。


 講演は,山梨県富士山科学研究所所長・東京大学名誉教授 藤井敏嗣先生をお迎えし,荒牧重雄名誉教授との対談形式とし,長年にわたる火山の研究とその防災対策に関わることについて,談論風発,知的興味の尽きない講演となりました。

次 第:11:00~11:15 記念講演会の開催にあたって(メダル紹介,花束贈呈)
東京地学協会会長 齊藤靖二
11:15~12:45 記念講演対談 「噴火と火山防災の60余年」
荒牧重雄, 進行:藤井敏嗣
 
講演と対談のあらまし(抜粋)

 1950年東大理学部地質学科に入学,間も無く伊豆大島が噴火した。同級生と見物に出かけたが,この時の強烈な印象がのちの火山研究のきっかけの一つとなった。久野久先生の提案で大学院では浅間山の研究を行い,小諸,追分,吾妻,鎌原などの火砕流堆積物を調査したことが,後年pyroclastic flow(火砕流)の定義の提唱につながった。この頃,地球物理の永田研の秋本俊一氏と岩石磁気の研究を行い,火砕流と土石流の判別に使えることを提唱した。1973年の浅間山噴火で初めて火砕流の流下を目撃,犠牲者の発生を心配するもごく小規模であった。

 その後も,雲仙・普賢岳噴火など国内外のさまざまな噴火に遭遇したが,1986年の伊豆大島噴火が印象的であった。噴火翌日の11月16日から現地で溶岩流出などを観測,21日の割れ目噴火開始は上空のヘリから目撃した。1950-51年噴火で火山研究を志し,86年噴火を始まりから終了まで見届けたことは感慨深い。

 2001年からの富士山ハザードマップの作成では,既存のデータにとどまらず,新たに行った地質調査,古記録調査の結果も活用するという手法をとり,当時としては最先端のハザードマップが作成できた。浅間のハザードマップも2003年の初版では頻度の高い中小規模の噴火に対応したものであったが,2018年には天明・天仁噴火を見据えた大規模噴火のハザードマップも作成し,浅間火山の研究成果は火山防災にも反映できた。