日時:平成30年11月16日 15:00~
場所:学士会館210号室
講演内容:

15:07 徳永英二博士講演

東京地学協会メダル第一号、ノルデンショルド博士の人と業績

 地形の研究で、スウェーデンのウプサラ大学に留学した。その時、日本でノルデンショルドの展覧会があり、東京地学協会も参加したシンポジウムが開催された。在スウェーデンの日本人としてこれに協力した。ノルデンとは北、ショルドとは楯を意味する。その後、資金を得て彼の事蹟を詳しく調査した。彼は、来日した際、日本文化に驚嘆し、大量の書物を購入、持ち帰った。それを紹介する抜刷を配付する。

  • (講演で紹介された文献)
    • 代表徳永英二(2000)国際交流における地理学的探検の意義 福武学術文化振興財団助成研究報告書49p
    • 代表徳永英二(2002)国際交流における地理学的探検の意義 第2版 福武学術文化振興 財団助成研究報告書91p
  • (配付された抜刷)
    • 三木宮彦(2002)ノルデンショルドの日本書籍漁り 上記第2版85-90




15:18 杉村 新博士講演

新しい地学、その開拓の道筋 (1)

 上田先生との共同研究以前に帯状配列として認識していた6論文を書いた。当時は海底拡大説の根拠を知らなかったが、上田先生が海底拡大説を導入し、日本列島の断面を、沈み込み帯を示す上田・杉村モデルとして描いた。

 上田先生と共同してIsland Arcsを執筆したが、これは弧状列島の英訳ではない。出版が逆になっただけだ。執筆中に岩波書店の雑誌「科学」に連載を頼まれたが、同じ内容を書くわけにはいかないと思い、初めは断った。その後編集部から英語と日本語では表現が異なり同じ内容でも著作権上の問題はないと説得され、「科学」への連載が始まった。これが集成されて単行本「弧状列島」になった。結果的には、説得されて良かった(祝賀会で、説得したのは名取湧子氏だと紹介された。)。

 今回の受賞は、研究成果より普及活動が評価されたと思っている。「弧状列島」は中国語訳も出ている。その後、岩波書店から「大地の動きをさぐる」を出版し、再版もされた。島弧-海溝系、横ずれ断層などの概念が普及した。

 諏訪兼位さんの「地球科学の開拓者たち」で上田、杉村は地学の開拓者とされた。24人の伝記と似顔絵があるが、そのうち生存者は3人で、上田と杉村はそれに含まれる。開拓者になれたのは、高校と大学の二人の恩師の研究成果に少し付け加えたことによる。旧制静岡高校の望月先生の大地形の境、東京大学の大塚先生の帯状配列の概念に少し付け加えた。科学は先達の仕事に付け足すことにより進歩する。

(一旦終了後追加)
 ガリレオの「新科学対話」とわれわれの「Island Arcs」は400年の時を隔てて同じ出版社から刊行された。シンボルマークも同じだ。岩波書店は100年続くのだろうか。ガリレオはイタリアで疎まれオランダで出版した。上田、杉村もこれに対比できる。

  • (講演で紹介された文献)
    • 杉村 新(1958)“七島-東北日本-千島”活動帯 地球科学37 34-39
    • A. Sugimura (1960) Zonal Arrangement of Some Geophysical and Petrological Features in Japan and its Environs. Journal of the Faculty of Science, University of Tokyo, Section 2, 12 133-153
    • 杉村 新(1963)東日本火山帯と西日本火山帯 どうして火山はそこにあるのか 科学33  489-491
    • 杉村 新(1965)火山の分布とマントルの地震との関係 火山第2集10 37-58
    • A. Sugimura (1966) Japan Island Arcs and Quaternary Subsidense of the Japan Trench. Proccedings 10 of the Eleventh Pacific Science Congress Tokyo
    • A. Sugimura (1967) Chemistry of Volcanic Rocks and Seismicity of the Earth's Mantle in the Island Arcs. Bulletin Volcanologique 30 319-334
    • 上田誠也・杉村新(1970)弧状列島 岩波書店156p
    • 上田誠也(1971)新しい地球観 岩波書店197p
    • A. Sugimura and S. Uyeda (1973) Island Arcs: Japan and Its Environs. Developments in Geotectonics 3 Elsevier 256p
    • 杉村 新(1973)大地の動きをさぐる 岩波書店236p
    • 杉村 新(1992)私と2人の先生:望月勝海と大塚弥之助 地質ニュース455 4-21
    • 諏訪兼位(2015)地球科学の開拓者たち―幕末から東日本大震災まで 岩波書店276p
    • Galileo Galilei/今野武雄、日田節次(1937)新科学対話 岩波書店 上209p下224p




16:06 上田誠也博士講演

新しい地学、その開拓の道筋 (2)

 学生時代、南極に行くことを希望したが、選ばれず、英国に留学することになった。結果的にはそれが良かったようだ。杉村論文が出た時、誰も評価しなかったが私は直ちに絶賛した。火山前線の考えはすばらしいと思った。そして共同研究が始まった。

 1964年、杉村先生と話し合い、岩波の科学への連載が始まった。その後、これを集成した「弧状列島」が出版され、1968年に革新的だと言われた。続いて、地震研究所紛争で研究活動が困難になり、空いた時間で岩波新書(新しい地球観)197pを書いた。更に、頑張って「世界の変動帯」もまとめた。これら普及活動が、メダル受賞につながったのではないかと思う。

 1995年の阪神淡路大震災をきっかけに地震予知に取り組んでいる。音響学と音楽の関係は、地震学と地震予知学の関係を類推させる。音響学や地震学は理論を突き詰めるが、音楽や地震予知は人の心に響くことを追求する。金森さんの予知の定義「人が自分の態度を事前に決められる情報を提供すること」はうまいが、これによれば、地震調査研究推進本部の「確立分布図」は予知とはいえない。何事も、同じこと(ありきたりのこと)の繰りかえしでは進歩しない。まともに失敗しないと成功もしない。

 2011年に東北日本大震災があり、2014年に地震予知学会が設立された。地震とは、大地が急激に動くこと、その原因は断層が動くこと、その原因はプレートが圧力(ストレス)を加えること、その原因はマントル対流による海洋プレートの沈み込みと分析される。これに対し、前兆現象は、地震前にほぼ確実に発生すれば地震の原因でなくてもよい。犬がなく吠えるでもいい。地震学と地震予知学は違う学問なのだ。次は東海、南海地震が予想される。ここでは、短時間で津波が襲来する。短期予知が大切だ。

  • (講演で紹介された文献)
    • Nagata T. (1952) Reverse Thermo-Remanent Magnetism. Nature 169 704-705
    • A. Sugimura (1960) Zonal Arrangement of Some Geophysical and Petrological Features in Japan and its Environs. Journal of the Faculty of Science, University of Tokyo, Section 2, 12 133-153
    • 上田誠也・杉村新(1970)弧状列島 岩波書店156p
    • 上田誠也(1971)新しい地球観 岩波書店197p
    • A. Sugimura and S. Uyeda (1973) Island Arcs: Japan and Its Environs. Developments in Geotectonics 3 Elsevier 256p
    • 上田誠也・杉村新(1973)世界の変動帯 岩波書店387p
    • S. Uyeda (1978) The New View of the Earth: Moving Continents and Moving Oceans. Freeman 217p
    • 地震調査研究推進本部(2008)全国を概観した地震動予測地図
    • 金森博雄(2012)地震研究堂々と進めよ 毎日新聞 平成24年11月5日


(質疑)

会場:岩波書店の科学に連載した時の協同の仕方について聞きたい。
演者:地球物理学については、杉村さんが執筆し、上田が手を入れ、上田の名前で発表する。地質学については逆にする。こういう方法で、共同連載を進めた。
会場:関東大震災の前に間欠泉の復活があった。こういうことは予知につながるのか。
演者:有効と思うが、データが少なくては実用化は難しいだろう。
会場:日本には3万本の温泉があるので、温泉の管理者にデータ提供を義務づければ可能性があるのではないか。
演者:データの集約や評価を組織化できるか疑問はあるが、一つのアイデアと思う。
会場:地震波より速度が速い重力波で震動を検知すれば短期予知になるのではなか。
演者:その時間差は役にはたたないでしょう。
会場:断層に係っているストレスの強さとストレスに対する断層の強さがわかれば予知につながるのではないか。
演者:そうかもしれませんが、それがなかなか難しいのです。初期条件からしてわからんのです。
会場:ストレスが限度を超えれば地震になるが、確率的な予知になる。日本では、地震は発生すればストレスはゼロになると考えている研究者が多いと思う。
演者:ストレスは残るのではないか。




17:00 祝賀会 学士会館320号室 64名参加