Home ニュース 講演会・地学クラブ開催報告 平成29年度秋季講演会 開催報告
開催概要:総合テーマ「ジオツーリズム-その発展と課題-」と題して、ジオツーリズムに関するユニークな活動をされている方々や東京地学協会ジオガイド叢書の執筆者の方々からジオツーリズムの実践例や今後の発展方策を語って頂いた。各講演後には熱心な質疑があった。
日時:平成29年11月25日(土)13:15~16:45
場所:弘済会館(東京都千代田区麹町5-1)
参加者数:25名
講演内容:

目代邦康(日本ジオサービス株式会社)

「コンビーナトーク」

 近年,世界自然遺産や国立公園、ジオパークなど地球科学的価値の高い場所での観光についての感心が高まっている。そうした観光であるジオツーリズムは、ニューツーリズムの一形態であり、地球科学者がこれまで蓄積してきた知識や経験を活かすことができる場である。質の高いジオツーリズムを成立させるためには、対象地域の科学的価値の評価が基本となる。その上で、専門性の高いガイドによる質の高いガイディングや、観光客を満足させる質の高いサービスの提供、そして、わかりやすく書かれた解説書やパンフレット、現地の解説板や施設などが必要である。そして、そうした実践から得られた情報や経験の共有を図ることにより、日本各地でのジオツーリズムは、より活性化していくことになるであろう。

 本講演会では、各地でジオツーリズムに関する活動をされている方々に、その実践内容と、背景となる考え方についてご講演いただく。東京地学協会でも、質の高い解説書を提供するため、ジオガイド叢書を創刊しているが、その第一弾で発行した書籍の執筆者の方にもご講演いただく。これらの実践にもとづいて、ジオツーリズムのさらなる発展のための方策を議論したい。


会場の様子


「ジオツーリズムの現状と今後の展望」

 観光開発といえば、かつては、道路や鉄道を整備し、大型の宿泊施設を建設するなど、自然を破壊して進めていくものが多かった。そうした観光地での観光形態はマスツーリズムと呼ばれ、多くの観光客が訪れることを前提としたものであった。そこではオーバーユースや地域住民との軋轢など、様々な問題が引き起こされてきた。こうしたマスツーリズムに対しての反省や、また、持続可能な開発のあり方についての議論を背景に、エコツーリズムが誕生し、様々な実践が行われるようになった。このエコツーリズムは、対象がecologicalなものというだけでなく、その旅行方法が、地域の自然を損なわない方法である。こうしたエコツーリズムは、各地域の経済的な発展を目指しており、自然資源が多く残る地域、特に発展途上国で、自然保護の一方法として様々な実践が行われるようになった。こうしたエコツーリズムの方法論を敷衍し、地質や地形を特に対象とするツーリズムがジオツーリズムである。ジオツーリズムでは、地質や地形の面白さが解説されるが、さらには、その基盤の上に成立している生態系や、文化なども地質、地形の影響を受けているものであれば解説の対象となる。ジオツーリズムは、地質や地形を理解するとともに、包括的な自然や文化を対象としたツーリズムとしてのポテンシャルを持っている。




大岩根 尚(合同会社むすひ)

「地球科学の専門家によるジオツアーの実践」

 景観の地形・地質学的な背景を解説して面白みを深めるジオツアーの試みは、ジオパークの流行とともに世間に認知されつつある。2015 年 9 月にジオパーク認定を取得した鹿児島県三島村では、もと地質学者の専門職員がジオの素材を活用してあらたな観光商品づくりに取り組んできた。研究者に監修を依頼し花火師が仕上げた線香花火や、温泉の海でのシーカヤック、火山ガスが湧き出す海底に潜るスキューバダイビングなど独自のジオツアーを展開している。これらは、いわゆる「ジオツアー」として地形地質を解説してまわるだけでなく、体を動かし五感を刺激した上で知識を提供するものである。また、地元に根付いた打楽器の演奏体験など「ジオ」にとらわれない体験を提供することで価値を高めている。さらに、このような野外活動をツアーや個人旅行客に向けて提供するだけでなく、企業や団体向けの研修メニューとして作り込み、高付加価値化を試みている。

 この講演に対し、学生巡検の規模、ツーリストの反応について質問があり、規模は10人から15人程度、反応としては「人工のない世界がよかった。」「暗闇歩きのなかで自分をさらけ出し人生を語ることができた。」「人が自然の一部になっているのを実感した。」などが印象に残ったとの回答があった。




鈴木美智子(ジオガシ旅行団)

「お菓子な景色で大地を楽しもう!-お土産型体験ツールで拡がるジオツーリズム-」

 和菓子の世界は日本古来の美意識にある「風情」と気の利いた「洒落」の要素を持つ。四季を持つ日本ならではの文化であり、様々な事象が菓子化されてきた。

 さて、ジオ菓子をご存知ですか?


ジオ菓子とは?


 約1500万年前には変成帯は地表に露出し、その表層部は急冷した。しかし、その後も上昇「風景を切り取ってお菓子にします」をテーマに作られたこのお菓子は、景色や鉱物にそっくり似せた菓子、その元になった景色の写真、地質の成り立ちを日本語と英語で解説、その場所にいきたくなった者の背中をそっと押すための現地へ誘う地図がパッケージされている。今までそんなお菓子あったであろうか。そう、これはただのお菓子ではなく食べるという行為を伴った体験ツールなのである。


お土産型体験ツール


 いかに大地に興味を持ち、楽しんでもらいながら(これ大事)、その場へ誘導できるかを考案し生まれた商品であり、最初はお菓子を作りたかったわけではない。ただ、甘い誘惑が必要だったのだ。


甘い誘惑の数々


 ジオガシ旅行団はジオ菓子片手に現地をめぐるツアーも行っている。参加者は様々な年代で、大体の者が終盤には景色が菓子に見えるという「ジオ菓子病」に罹る。そうこうしているうちに、あの景色は、、、などと見る場所見る場所、気になって仕方なくなる。それが狙いである。


ジオ菓子片手に現地へ


 ジオガシ旅行団の活動は多岐にわたり、ジオ菓子製造、講演、商品開発、キッチン教室、ツアーを行っている。


キッチン教室


 この講演の後10分間休憩し、ジオ菓子の実演販売がおこなわれた。


ジオ菓子販売中




狩野謙一(静岡大)

「学術研究サイドとジオパークとの橋渡しとしての「伊豆半島南部のジオガイド」」

 本書は、当初は学会巡検用の学術的案内書として企画されたが、執筆の過程で、ジオガイドのスキルアップ用としての教材的役割を意識するようになった。それでも、途中から地学協会の助成を受け出版に至るまで、伊豆半島ジオパーク推進協議会とはほとんど独立して本企画は進行してきた。一方、伊豆半島ジオパークは、昨年の世界ジオパークの審査において、学術面での呈示が十分ではないことが理由の一つとなり、登録を保留された。この審査での指摘をふまえて、本書は伊豆半島ジオガイド協会に受け入れられ、ガイドの再教育用の教材として普及することとなった。この半年間に、本書に関連して、著者による講演一回、巡検三日分が企画・運営され、再審査に向けた資料としても活用されている。今後のジオパーク・ジオツーリズムの普及・発展のためには、従来からの一般向け解説用のパンフ・案内看板、DVDなどの作成とともに、最新の学術的なベースにたった教育的配慮も重要となっていくであろう。本書はその具体的事例の一つとなった。幸い、300部の初刷り以降、数10部の増刷が2回と100部の増刷が1回実現した。




島津 弘(立正大学)

「屋久島ジオガイド」から世界遺産屋久島の「ジオ」を発信する

 ユネスコ世界自然遺産に登録されるためには4つの基準のうちの1つ以上を満たしていることが条件である。屋久島は、そのうち2つ、「生態学的生物学的過程を代表する顕著な見本」と「自然の美しさ」を満たすものとして1993年に登録された。一方、登録基準にある「生命進化の記録,重要な進行中の地質学的・地形形成過程あるいは重要な地形学的自然地理学的特徴を含み、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本であること」については、登録にあたっての推薦理由にも含まれていない。このことも影響してか、屋久島で注目されるのは動植物が中心で、自然ガイドブックも動植物に関するものばかりで、地質学、自然地理学的なものはほとんどない。

 環境省によるとここ数年の屋久島の入り込み観光客数は年間30万人程度である。おそらくその大半が「屋久杉」に代表される屋久島の動植物を中心とした風景にあこがれてやってくる。しかし、屋久島は、その生物的特徴を形成し得る基盤として、地形学的、地質学的、気候学的にきわめて特異的でかつ日本列島の典型的な特徴をも持っている。東京地学協会による助成の一環で出版したジオガイド叢書2「屋久島ジオガイド」は、今まであまり注目されてこなかった屋久島全体の「ジオ(広い意味の地学)」情報を発信することを目的としてつくられたガイドブックである。屋久島を訪れるふつうの観光客の一部でもいいので、「ジオ」に興味を持っていただけることを願っている。この本を執筆したことにより、各方面から地学についての解説を依頼されるようになった。ジオまた、東京地学協会の「普及・啓発活動(出版)助成金」を活用した、さまざまなジオパークや世界遺産地域に関するジオガイドが出版されることによって、日本全体にさらなる「ジオ」の輪が広がることを期待している。