Home ニュース 講演会・地学クラブ開催報告 地学クラブ第302回講演会報告
ノルデンショルド一行の世界史的偉業と東京地学協会創立時の国際的文化行事
▲東京大学名誉教授 西川 治氏
日時:平成29年9月22日(金)14:00から15:00まで
場所:東京都千代田区二番町12-2 東京地学協会(地学会館)講堂
参加者数:20名
講演内容:

 コロンブスの世界図には、まだアメリカ大陸は影も形もなく、マルコポーロによる黄金のジパングが光っていた。その後も西欧の探検家たちにとって香料の産地、東南アジアへと向かう残された航路はいくつかあった。その最後が東へと北氷洋を大周航して、日本列島を経由する最も困難な航路であった。

 こうしたヨーロッパ的世界史上の偉業を達成したのが、ヴェガ号によるノルデンショルド一行であり、横浜からスエーデン国王あてに成功の電信が送られた。時に明治12年8月25日ドイツアジア協会社長・ドイツ帝国弁理公使フォン アイセンデッケルは、この偉業を達成した一行を国際的にも大歓迎すべしと、奇しくも発足後まもない東京地学協会副社長・海軍中将榎本武揚に書を寄せた。それを受けた協会幹事の渡辺洪基(後の東京大学初代総長)は、ドイツアジア協会の提案を受けてイギリスアジア協会との三者合同の祝賀会開催に向けて尽力、9月12日には議員の会堂において、地学協会は特別銀製記念牌をノルデンショルド博士に贈呈、同月12日には工部大学校にて画期的祝賀会、日本図(伊能図)・大地球儀も飾られた。

 食卓の首座は東京地学協会社長三品勲一等北白川能久親王殿下。側近の三支席にはドイツ・イギリス・日本(榎本武揚)の各協会長、40数人の代表的日本人、各国の名氏方。合計134名。式典の後に、ノルデンショルド博士は,雷のような歓声の中に立って演説、地学協会の探求すべき事の広きを祝し、首座の親王殿下には,あえて東京地学協会の日本人企業の北極遠征を勧奨し、北西の針路を取り巡りヨーロッパに来ることを望まれた。その後イギリス公使パークスの大演説があり、各国代表人の見識競演、これら祝宴の詳細は、「東京地学協会報告」第一巻第4号、(明治12年)に採録されている(抜粋を配付し講演の中で講読)。

 その後、此の航海の百周年記念行事が、1979年の11月に東京地学協・日本地理学会・スウェーデン人類・地理学協会の三者で東京地学協会(講演会・遺品展)と他でも行なわれた。演者は担当委員会の事務局長を務めた。また、ノルデンショルドの生誕国フィンランドでも記念講演会が行われ、徳永英二・嶋崎吉彦・西川治が参加した。この様子は、スウェーデンで冊子として刊行された(抜粋を配付するとともに別室で展示)。

 その後、福武学術文化財団の助成研究費により『国際交流における地理学的探検の意義』(2000)と『国際交流における地理学的探検の意義』第2版(2002)を作成した。

■主な配付資料
  • 北氷洋周航瑞典滊船ウエガ號乗組士官饗應記事 東京地学協会報告第1巻第4号1-22(1-7を抜粋)
  • ノルデンショルド北氷洋周航百年記念講演会パンフレット4p
  • Urban Wrakberg and Gunilla Lindberg-Wada "An Arctic Passage to the Far East"(抜粋)
■主な展示物
  • Nordenskiöld A.E., 1880, Vegas färd kring Asien och Europa I-II Published by Beijers

    (対象地域の古い探検史や航海中各地で調べた動植物、原住民の生活、地理などが図版とともに記述されている。また折込みの大判地図により、ヴェガ号航海によってアジア北辺の地図(地理情報)が詳細になっていく様子が示されている。東京地学協会の初仕事としてThe Admiralty Manual of Scientific Inquiry(英国海軍士官視察指掌)を翻訳したが(訳本名「學海探求之指針」)※、そのマニュアルを実行したような航海だった。)
  • A. E.ノルデンシェルド/小川たかし訳「ヴェガ号航海誌」フジ出版社 上514p下490p航跡図2シート(上記の英文版からの訳)
  • Urban Wrakberg and Gunilla Lindberg-Wada "An Arctic Passage to the Far East"
  • ノルデンショルド北氷洋周航百年記念講演会の際のスナップ写真多数
  • 国際交流における地理学的探検の意義-A. E. ノルデンショルドの偉業と日本語文献の国際的評価- 2000年12月49p 同第2版 2002年5月91p
※翻訳については「東京地学協会ウェブサイト 協会紹介⇒調査研究」のページ、學海探求之指針については「ウェブ図書室」のページに記載があります。