第265回地学クラブ講演会

6月20日(月)14:00~17:00

東日本大震災の影響などでしばらく間を開けましたが、今回は2件の講演を予定しています。ふるってご参加ください。

14:00~15:30
1.新たなフェーズを迎えた衛星リモートセンシングデータの高度利用 -最新技術の地質分野への適用-
六川修一(東京大学人工物工学研究センター教授)
要旨
わが国の宇宙利用は,2008年の宇宙基本法の制定,宇宙戦略本部の設立ならびに2009年の宇宙基本計画の策定により,新たなフェーズを迎えている.その中では,宇宙の実利用重視の方向性が明確に打ち出されており,衛星,センサ,利用技術を総合化して宇宙外交を進め,国際的な宇宙利用を推進すべきであるとしている.  このような背景の下、最新のリモートセンシング技術は、光学センサおよびマイクロ波センサの両面で従来の2次元情報から3次元な空間情報へとその利用が進展している。地質学分野への応用では、光学ステレオ視センサによる土砂災害発生時の土砂量把握ならびに干渉SARによる長期地盤微細変動計測等でその実利用化が期待されている.  近年の光学リモートセンシングでは,画像センサの高解像度化および衛星自体の軌道と姿勢制御の高精度化により、2枚以上の異なる方向から撮影された衛星画像(ステレオ衛星画像)を用いれば,対象物の3次元位置座標を計測して数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)を作成できる.このため、災害前後に撮影された2組のステレオ衛星画像を用いれば,斜面崩壊に伴う地形変化を解析し崩壊土砂量を推定することが可能である.ここでは宮崎県鰐塚山の土砂災害による地形変化の解析事例を紹介する.  一方、干渉SAR技術は測定目標とレーダアンテナとの距離を前後2回測定し,その差から測定箇所の微細な変動を検出しようとする一種の測距技術である.この際,測定のものさしとして発信レーダの波長を用いるという点に特徴がある.本講演では、千葉県九十九里地域における長期地盤変動を2003年から2008年にわたって計測した結果、東北地方太平洋沖地震の地盤変動結果ならびに霧島連山、新燃岳の噴火モニタリングの事例を紹介する。

15:30~17:00
2.「地層に記録された西暦869年貞観の津波」
岡村行信(産総研 活断層・地震研究センター長)
要旨
「日本三代実録」には、西暦869年に当時の陸奥の国で大きな地震動と津波があったことが記載されており、貞観地震と呼ばれている。宮城県から福島県の海岸平野での調査によって、貞観地震に伴う津波によって形成された津波堆積物が、当時の海岸線から3km以上内陸まで分布することを確認した。その津波を発生させた地震の規模を推定するために、さまざまな津波波源モデルについてシミュレーションを行った結果、少なくともマグニチュード8.4の地震が発生しないと、津波堆積物の分布域まで津波が浸水しないことを明らかにした。一方で、津波堆積物の分布域から津波浸水域を正確に推定できなかったこと、震源域の南北の限界を特定できなかったことから、マグニチュード9の地震を想定することはできていなかった。