「3.11地震から1年」

島崎邦彦氏(東京大学名誉教授)

日時:平成24年3月21日(水)14時より
場所:東京地学協会講堂

要旨
昨年3月11日の地震、津波と、その後発生した原発事故について、さまざまな面から明らかにされつつある。福島第一原発では、浸水高15.5mの津波が襲い全電源喪失に至ったが、東京電力では政府地震調査委員会の長期評価にもとづいて浸水高が15.7mになるという「試算」を行っていた。この長期評価とは何か、長期評価が生かされなかったのはどのような経緯によるのか、について述べる。この評価に従った対策がされていれば津波被害はかなり軽減できたであろう。また、原発の重大事故に至ることはなかったかもしれない。
長期評価は、過去の地震履歴に基づいているので今回のような地震については全く無力である、と誤解されている。マグニチュード9は予測できなかったものの、海溝付近で発生する津波地震については予測していた。この予測が防災に役立つ情報であったことは既に述べたとおりである。過去の三つの津波地震(1611年、1677年11月、1896年)がいずれも海溝付近の帯状域で発生したと考えられることから、この領域では、どこでも明治三陸地震級の津波地震が発生すると、2002年に公表していた。このように、たとえ過去に記録がなくとも、テクトニクスから同じタイプの地震が起こると考えられる地域では、そのような地震が将来発生すると予測している。
沈み込むプレートの折れ曲がりによる正断層型地震(昭和三陸地震タイプ、或いはアウターライズの地震)についても、海溝付近の正断層型地震の統計や、過去の活動によって生じたと考えられる海底地形などを根拠として、発生確率を推定している。このように科学的知見を駆使すれば、完全ではなくとも防災に有用な情報を提供することができる。