「氷河地形学の最近の発展」

岩田修二(東京都立大学名誉教授)

平成24年4月20日(金)午後2時より 東京地学協会講堂にて

要旨
学生時代から,日本アルプス,ヒマラヤ・チベット,南極などで氷河や氷河地形の研究を続けてきた。その成果を『氷河地形学』(東京大学出版会,2011)にまとめた。この機会に,この本の内容をネタにして,氷河研究と氷河地形学との関係,さらに氷河や氷河地形・地質を用いた環境復元の話題や,最近,注目されている氷河災害などについて,つぎのような内容をお話ししたい。

  1. 氷河形態と氷河地形学:世界全体の環境の理解のためには,氷河の重要性を認め,氷河モニタリングを継続することが重要である。その際,地形学者も,氷河を固体地球表面形態の一部と認識し,積極的に参加すべきである。
  2. 流動と侵食:氷河学者が研究する氷河流動メカニズムは氷河地形形成に貢献しない。氷河底面滑りと,氷河底の水・温度・物質の状態,および岩屑の様態が侵食地形の形成を決める。
  3. 氷河での水と岩屑の挙動:氷河堆積地形形成の核心部分は氷河底と縁辺での岩屑の挙動である。氷河堆積地形(モレーンなど)形成メカニズムにおける流水の作用の重要性を認識すること。
  4. 氷河変動研究の進展,しかし地球環境変動のツールとしての役割の交替:氷河変動研究は進展してきたが,その意義は? コア研究との役割分担は? など考えるべき多くの課題がある。
  5. 氷河と災害:氷河湖決壊洪水の災害軽減の海外援助研究(ブータンで)の経験から.住民に役立つとはどういうことか? われわれがなすべきことは何か?