「育水のすすめ 地下水の利用と保全」

日時:平成25年9月28日(土)14:00〜15:30

場所:東京地学協会講堂

演者:中村 裕昭
(GUPIジオ・アドバイザー,GUPI共生型地下水技術活用研究会事務局,㈱地域環境研究所 代表取締役)

要旨:人類が水なくして生存し続けることができないのは自明の理なので,水資源を安定的に確保することは,人類生存上の重要課題である。水資源の中でも地下水は身近で恒温の良質な水を身近な所で簡易に安価に得やすい特徴があることから,水資源としての利用ニーズが非常に高いが,無秩序な揚水は地盤沈下を引き起こし,沿岸域に膨大なゼロメートル地帯を創出した苦い経験から,都市域では揚水規制によって,実質的に地下水利用が非常にし辛い状況が続いている。

 一方,環境分野では,「健全な水循環の確保」が叫ばれて久しく,この概念自体は広く普及・定着したかに見える。このフレーズにおける「健全な」とは,循環系のもとで形成されている水の環境要素としての機能,資源としての役割,防災機能,等を維持できている状態を意味している。

 そこで,われわれが資源として地下水を利用する際には,近年では,この水循環系における健全性を維持し続けていく仕組みの中での利用が求められるようになった。即ち,人類と水環境との共生であり,共生型の地下水利用である。地下水利用を踏まえた時の,水循環系における健全性を維持し続けていく仕組みとして我々は『育水』を提唱している。ここで,育水は地下水利用によって生じる水収支上のマイナスを単に涵養によって補うという単純な概念ではなく,広い意味での水循環の健全性の維持に貢献するという主旨での造語である。水環境の機能保全と地下水利用との好循環形勢を目指す概念である。

 われわれは平成19年12月に共生型地下水技術活用研究会を立ち上げて,以降,水循環系の健全性を維持し続けながら地下水が利用できる方法の研究を行い,その成果を書籍『育水のすすめ 地下水の利用と保全』にまとめ,平成25年7月に技報堂出版から刊行した。今回は,共生型の地下水利用と育水の基本的考え方を概説する。