秋季公開講演会のお知らせ

会場:東京地学協会講堂
10月22日(土)14:00~15:30
「2020年問題:イースター島からの提案」
福澤仁之(首都大学東京・都市環境学部 地理環境コース教授)

【要旨】

  1. はじめに
    活動による「温暖化ガス」の排出は、将来の地球環境の突然かつ急激に変化させる可能性が指摘され、現在の地球環境変動システムの理解とその将来予測が重要であると考えられている.その際に、過去の様々な堆積物に記録された環境変動を検出して、その時系列変動を理解して、持続可能性のある自然−人間共生系の構築が急がれている.本発表では、ローマクラブが指摘した「2020年問題」に影響を与える自然環境変動=気候変動の重要性をイースター島の例を挙げて説明する.また、気候変動の将来予測を行う上で重要な「温暖化ガス」排出と人為的環境改変の関係に関する最近の論文を紹介し、2020年問題を解決するパラダイムを構築について考察する.
  2. 地球環境の将来予測 
    2.1 今までの将来予測
    1972年にローマクラブが人口の将来予測を行い、 1970年までのデータを使って、「資源」「食糧」「工業生産」「汚染」も含めたカーブを予想して描いた.それによれば、「食糧」や「資源」も消費による枯渇が生じて、その交点=「成長の限界」が2020年にあり、2050年には人口が百億人になり大きなカタストロフが生じて、その後に減少をたどると予測した. この人間と共生する地球環境の将来予測において、ローマクラブの見解には大きなものが欠落している.それは、気候変動である.100万年前以降、10万年周期が卓越する氷期−間氷期サイクルが顕著に現れている.しかも、氷期の中には突然かつ急激な寒暖変動が生じて、50年以内に7度上下することは一般的であった.その中で、現在の完新世(間氷期)の安定した気候は極めて異常な状態であることがわかる.また、過去の氷期−間氷期サイクルからこれから将来は寒冷化することは明らかである.したがって、将来予測の中に気候変動に関する情報もインプットしなければ信頼性の高い予測はできない.
    2.2将来の地球環境のモデルとしてのイースター島
    ローマクラブの予測が正しいかどうかを判断するためには、モデルシュミレーションが重要である.しかしながら、何百年と言う時間をかけないといけないため、それはほとんど不可能である.そこで、過去の類似する環境変遷から推定せざるを得ない.それが「イースター島モデル」である.
    イースター島は南東太平洋に浮かぶ孤島で、西暦500年頃に西からやってきたモンゴロイドが住み着き、1862年に住民1000人がペルーに連れ去られるまで、全くといっていいほど外界からの干渉を受けていない.これは、ボーダレスになった現在の地球と同じである. イースター島は火山島であり、多くの火口湖があり、そこには厚い堆積物がある.2005年3月の我々の調査では、1年単位の縞模様=年縞が連続する堆積物を採取できた.これらの火口湖堆積物に含まれる花粉、チャコール(微粒炭)および堆積速度と、遺跡における黒曜石の石器量による人口の推定が行なわれている.それによれば、西暦500年頃のモンゴロイドのホツマツア一行の漂着によって、森林が開拓され、焼き畑による土壌浸食が生じた.食糧の増産によって人口が増加して、西暦1200年頃から人口増大による汚染が微粒炭の増加として現れた.また、アフ(祭壇)の上に置かれたモアイ像などの遺跡も西暦700年から1680年までに作られている.しかし、西暦1700年を境に人口が激減した.  これらのイースター島における環境変遷は、ローマクラブによる予測モデルと驚くほど似ている.イースター島の環境変遷モデルはローマクラブによる将来予測の高い信頼性を裏付けている.ただし、イースター島では、西暦1690年頃に人口が1万人から5000人程度へと急減している.この理由としては、1)気候変動による食糧生産の減少、2)「ハナウ・エエペ(たくましい人の意)」と「ハナウ・モモコ(やせた人の意)」の戦いで前者がほぼ全滅させられたことなど考えられる.2)の場合でもそこには食糧の確保が戦闘目的にあったと考えられている.いずれにして、食糧の減産がこの時期におこっている.この時期は気候変動の「小氷期」に相当し、とくに西暦1690年前後は太陽黒点数の減少期である「マウンダー極小期」に一致する.
    また、イースター島内の多くの花粉分析から、森林の衰亡も復元されている.16000年前以降の森林・草原・農耕地の垂直分布によれば、ヨーロッパ人が航海の途中に寄った1680年と1722年の間に、森林植生が未回復で農耕地が激減していることがわかる.  すなわち、社会科学的に行なわれた将来の地球環境予測(ローマクラブ・モデル)と実際例(イースター島モデル)を比較すると、実際例には気候変動要素が強い影響を与えていることが明らかである.
  1. おわりに  過去の気候変動を解明する研究=古気候学(paleoclimatology)による、気候変動の大きさ、振幅、周期および速度の検討が、地球環境と共生する人類活動パラダイムを構築する上で極めて重要で、2020年問題を解決する一手段になるのではないだろうか.